これは、そういうときに心に入り込んでくる奇妙な「山の怪(やまのけ)」の話だ。
山という非日常世界に入って自分の心が「怪(け)」の状態になっていると考えているので、心霊の話とかではない。
地元の駅から1時30分発の終電で山に近い終点の駅までいく。
駅を出て近くのベンチで1時間ほど横になる。田舎の駅なのでコンビニ以外何も無い。
山の麓まで誰もいない国道を一人歩く。
国道といっても片側一車線の田舎道だ。近くに高速道路があるので、深夜は地元民の車がたまに走っている以外はとても静かだ。
どれくらい静かなのかというと、歩いていると自分の発する呼吸の音の他に、通りの民家の住人のイビキが聞こえる程だ。
国道を30分程歩くと山の麓の登山道の入り口に着く。
ここから先は、まあ1時間半は街灯は無い。
しかも懐中電灯を持ってきているが使わない。暗闇に飲み込まれるのだ。
暫くすると目が慣れてくるが、完全に慣れてなんとなく見えるようになるまで変なモノを見たような気がして、びびって懐中電灯を点灯すると紫陽花だったりする。
もくもくと歩く。風が無く、蒸し暑さがこたえる。汗が滴り落ちるのを感じる。
目が慣れてきた。木々や草、花がギリギリ解るようになってきた。
そしてわしはある事に気がついた。
「国道を歩いていた時に聞こえた自分の呼吸音が聞こえない!」山を登っているので息が激しくなっているのが解るが、それが聞こえないのだ。
考える、「なぜ?こんなに静かなのに!」
その時、怪(け)が答える。
「全然静かじゃないだろう。」
なるほど、音がしている。四方八方から上から下から。
それで自分の吐く息の音も聞こえないのか。.....そして怪(け)が問いかけてきた。
「どんな音が聞こえているの?」
「え?どんな??」.....解らない。でもわしには聞こえている筈だ。
だって上り坂をもう一時間以上登っていて、息がゼイゼイいってるのが聞こえないぐらいの音が周りから聞こえているんだ、でもどんな?
「というより音源は何?何がこんなに五月蝿くしているんだ?」
突然、息の音と砂利道を歩く足音が聞こえてきた。灯りが見えた。
狛犬が吠えているように見えた
しばらく歩き、振り返ると、ほんの少し空が明るくなってきたようだった。
つづく。「山の怪(やまのけ)その2」
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