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2013年9月8日日曜日

山の怪(やまのけ)その3

山の怪(やまのけ)その1」、「山の怪(やまのけ)その2」のつづき。


茶屋が見えた。いつのまにか山頂に着いていた。
草木の踊りは止まっていて普通の風景に戻っている。


周りを見渡す。人の姿は見えず、とても静かだ。涼しい風が気持ち良い。

茶屋の荒れ果てた建物に近づく。
茶屋人ももちろん居ないが、何か違和を感じる。先程まで店が開いていたような、、




そうだ!「さっきまで誰か居た」
今は居なくなっただけで、此処でたくさんの客が飲み食いしていたようだ。
昨日今日という時間ではなく、数時間前の深夜だ。
でもなんで?

なんでそう思うのか?考えるとその時、


   「旨そうな匂いだろう?」


「怪(け)」の声だ。

食べ物屋の匂いがしていた。
すぐ目の前で料理しているとしか思えない程の、何かの汁物と肉の焦げたような匂いがしている。
しかし見えない。只の荒れた茶屋しかわしには見えない!
わしは今日、初めて声を出した。


悲鳴ではない。そんな臆病なら一人で深夜の山など登らない。

「焼き魚はねえのかよ!」

「怪(け)」の声が答える。


   「この山の者がこの山の者を喰らうのだ」



わしは更に茶屋に向かってしゃべる。
「なるほど、魚はこの山にはいねえのか!シケた山だな。」




   「おまえはしゃべったから、もう戻れない」



戻れない?この山からか降りることが出来ないってか?
「怪(け)」は更に



   「喰らう側になるか?それとも喰らわれるのを待つのか?」



「わしを喰うってか?おもしれえやってみろよ。」
と言おうとした時に、茶屋の向こう側から薪を割るような、、屶か斧のような道具で何か固いモノを勢いよく割っているような乾いた音がした後に水をバケツでぶちまけているような音が、、。

直感が来た!
「ヤバい!!!」
此処にいては駄目だ !
すぐに離れなければ!

跳ねるようにその場を離れ、茶屋の椅子とテーブルの間を駆け抜ける。


曲がって置いてあるので一直線に走れない。椅子の脚に足をとられそうになりながらも息を止めて全速力で走る。
向こうに5-60メートル四方程の芝生の広場が見える。
手前が急な下り坂で足を滑らせながら広場の中央を目指す。



広場に入った途端に空気が変わった。
食べ物の匂いはしない。
音のした方向を見る。こちら側が低い位置なのでよく見えないが割った薪を積んである場所が見えた。人も居るようで帽子が動いている。


安心で汗が吹き出る。
暑い。日射しがだいぶ高くなってきた。
つづく。

2013年8月28日水曜日

山の怪(やまのけ)その2

「山の怪(やまのけ)その1」のつづき。


夜が明けた。
湿度が急激に低くなってきて、体が冷えてくる。
山寺を通りすぎて山頂を迂回する巻き道に入りここの山系の更に奥へ進むことにする。


山頂には多分、誰かしら居るだろう。そういう山だ。休日の昼間は登山者で渋滞し、山頂はディズニーランドと変わらないと聞いた。
人混みは嫌いでは無いけれど、山では誰にも会わない方が好きだ。
ほとんどの人は山頂から奥に行かないが、それでも朝の時間帯でも誰かしら会うことが多い。
しかし今日は更に早い時間なので誰も居ないだろう。
風は無い。鳥のさえずり、自分の足音も聞こえる。



「夜のあの感じはなんだったのだろうか?」



答える声は無い。
「山の怪(やまのけ)」は夜のあの押し潰されそうな空気とともに消えたのだろう。
思っていた通り、誰にも会わない。その方が良い。
ベンチ、売店のテーブル、トイレ、全て独り占めだ。


そんなトイレで用をたしている時、外に気配がある。
「誰か来たのだ」と感じた。
トイレの外に出るが、誰もいない。
人どころか動くものは何も無い。気のせい。
更に奥に進む。取り敢えずの目的地は約1時間程先の茶屋だ。
細かいアップダウンを歩く。足元がぬかるんでいるので注意が必要だ。なんか飽きてきた。
ふと、5メートル程先の草が目にとまった。


葉が動いている。風に揺られるように。
しかし、風が吹いているようには感じない。
その草とぬかるんだ足元に気を付けて歩く。草が近づく。どうやら葉は、くるくる回っているようだ。
回っている葉を良く観察してみようと更に寄ると、もう動いていない。
「確かこの草だ。虫かなんかが回してたのか?」「それとも風?」覗きこむと、、、花のつぼみが顔に見えてはっとした瞬間、




   「おまえが来た時、動きは止まった」


あの声だ。
待っていたのか?いや、解った!
さっきのトイレだ!
わしは何かが来たと感じたんだった。人であれば近づいて去っていく気配のはずだ。
感じたのは明らかに「来た」という気配だ。目的はわしだったのだ!

「来た時に動きが止まった」とは?
なぜ動いていたのかの答えは?

その時、上から「ざあああーー」。


木の枝が上下に波打って朝露を吐き出しているのが見えた。そしてすぐにその木の隣もおなじように上下に揺れ始めた。脈拍数が上がっているのが解る。上を見ながら歩くと危険なので足元を見る。


そして歩き出す。何が起こってもわし一人しかここにはいない。
何が起きていても出来ることは歩いて先を目指す事だけだろう。



道の両側にわしの目の高さの長い葉の草の群生がみっしり生えている。
その葉も上下に波打っている。


わしは風が吹いているんだろうと思うことにした。感じない程度の空気の流れがあるんだ。


   「こんなに揺れるわけないだろう?」


うるさい。風が吹いているんだ。
「怪(け)」が来ているのであれば風を感じない状態にされているんだ。夜に音がおかしくなったと同じように。
取り敢えずそう思ってしまえば、どうということはないが、再び声が聞こえる。


   「確かめてみれば?」


そうだ。
確かめる事ができる。
手や帽子であおいでみればいいのだ。
しかし、出来ない。
もし、風が普通に出たら?
今、目にしている草木の踊りはどう解釈すればいいのか?


その答えは見つからない。
花が笑っている!


確かめようとしないわしの頭の中を見透かされているようだ。
息が止まる程急いで歩く。
いきなり広い所に出た。



茶屋があった。
つづく、、、

2013年8月23日金曜日

山の怪(やまのけ)その1

わしは腰が悪いので腰以外の部分を鍛える為に、トレーニングとして早朝から山に登っているが、時として夜明け前から山に登りたくなる。

これは、そういうときに心に入り込んでくる奇妙な「山の怪(やまのけ)」の話だ。

山という非日常世界に入って自分の心が「怪(け)」の状態になっていると考えているので、心霊の話とかではない。


地元の駅から1時30分発の終電で山に近い終点の駅までいく。



駅を出て近くのベンチで1時間ほど横になる。田舎の駅なのでコンビニ以外何も無い。



山の麓まで誰もいない国道を一人歩く。
国道といっても片側一車線の田舎道だ。近くに高速道路があるので、深夜は地元民の車がたまに走っている以外はとても静かだ。
どれくらい静かなのかというと、歩いていると自分の発する呼吸の音の他に、通りの民家の住人のイビキが聞こえる程だ。



国道を30分程歩くと山の麓の登山道の入り口に着く。
ここから先は、まあ1時間半は街灯は無い。



しかも懐中電灯を持ってきているが使わない。暗闇に飲み込まれるのだ。



暫くすると目が慣れてくるが、完全に慣れてなんとなく見えるようになるまで変なモノを見たような気がして、びびって懐中電灯を点灯すると紫陽花だったりする。



もくもくと歩く。風が無く、蒸し暑さがこたえる。汗が滴り落ちるのを感じる。
目が慣れてきた。木々や草、花がギリギリ解るようになってきた。

そしてわしはある事に気がついた。



「国道を歩いていた時に聞こえた自分の呼吸音が聞こえない!」山を登っているので息が激しくなっているのが解るが、それが聞こえないのだ。

考える、「なぜ?こんなに静かなのに!」
その時、怪(け)が答える。


     「全然静かじゃないだろう。」



なるほど、音がしている。四方八方から上から下から。
それで自分の吐く息の音も聞こえないのか。.....そして怪(け)が問いかけてきた。


     「どんな音が聞こえているの?」


「え?どんな??」.....解らない。でもわしには聞こえている筈だ。

だって上り坂をもう一時間以上登っていて、息がゼイゼイいってるのが聞こえないぐらいの音が周りから聞こえているんだ、でもどんな?

「というより音源は何?何がこんなに五月蝿くしているんだ?」




突然、息の音と砂利道を歩く足音が聞こえてきた。灯りが見えた。
狛犬が吠えているように見えた



しばらく歩き、振り返ると、ほんの少し空が明るくなってきたようだった。



つづく。「山の怪(やまのけ)その2」