「山の怪(やまのけ)その1」、「山の怪(やまのけ)その2」のつづき。
茶屋が見えた。いつのまにか山頂に着いていた。
草木の踊りは止まっていて普通の風景に戻っている。
周りを見渡す。人の姿は見えず、とても静かだ。涼しい風が気持ち良い。
茶屋の荒れ果てた建物に近づく。
茶屋人ももちろん居ないが、何か違和を感じる。先程まで店が開いていたような、、
そうだ!「さっきまで誰か居た」
今は居なくなっただけで、此処でたくさんの客が飲み食いしていたようだ。
昨日今日という時間ではなく、数時間前の深夜だ。
でもなんで?
なんでそう思うのか?考えるとその時、
「旨そうな匂いだろう?」
「怪(け)」の声だ。
食べ物屋の匂いがしていた。
すぐ目の前で料理しているとしか思えない程の、何かの汁物と肉の焦げたような匂いがしている。
しかし見えない。只の荒れた茶屋しかわしには見えない!
わしは今日、初めて声を出した。
悲鳴ではない。そんな臆病なら一人で深夜の山など登らない。
「焼き魚はねえのかよ!」
「怪(け)」の声が答える。
「この山の者がこの山の者を喰らうのだ」
わしは更に茶屋に向かってしゃべる。
「なるほど、魚はこの山にはいねえのか!シケた山だな。」
「おまえはしゃべったから、もう戻れない」
戻れない?この山からか降りることが出来ないってか?
「怪(け)」は更に
「喰らう側になるか?それとも喰らわれるのを待つのか?」
「わしを喰うってか?おもしれえやってみろよ。」
と言おうとした時に、茶屋の向こう側から薪を割るような、、屶か斧のような道具で何か固いモノを勢いよく割っているような乾いた音がした後に水をバケツでぶちまけているような音が、、。
直感が来た!
「ヤバい!!!」
此処にいては駄目だ !
すぐに離れなければ!
跳ねるようにその場を離れ、茶屋の椅子とテーブルの間を駆け抜ける。
曲がって置いてあるので一直線に走れない。椅子の脚に足をとられそうになりながらも息を止めて全速力で走る。
向こうに5-60メートル四方程の芝生の広場が見える。
手前が急な下り坂で足を滑らせながら広場の中央を目指す。
広場に入った途端に空気が変わった。
食べ物の匂いはしない。
音のした方向を見る。こちら側が低い位置なのでよく見えないが割った薪を積んである場所が見えた。人も居るようで帽子が動いている。
安心で汗が吹き出る。
暑い。日射しがだいぶ高くなってきた。
つづく。
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